国会質問

● ● ● ●  大門みきし Daimon Mikishi  ● ● ● ●


■2025年5月14日 参議院 本会議 公益通報 より実効力を改正案に 罰則導入
<赤旗記事>

2025年5月16日(金)

公益通報、より実効力を
改正案に罰則導入 大門氏評価
参院本会議

(写真)質問する大門実紀史議員
=14日、参院本会議

 日本共産党の大門実紀史議員は14日の参院本会議で公益通報者保護法改正案の質疑に立ち、公益通報を理由とした解雇や懲戒に対する刑事罰導入などの今回の改正は一歩前進だとしつつ、より実効力をもつ内容にするよう要求しました。

 大門氏は、斎藤元彦兵庫県知事が自身のパワハラを外部通報した西播磨県民局長を懲戒処分した対応をめぐり、保護は内部通報に限られるとの間違った解釈で「適切」だと言い張っているが、「大臣自身が誤りを改めるように求めるべきだ」と訴えました。

 大門氏は、経済界の抵抗でこれまでの法改正は実効性のない中身になった結果、裁判で同保護法を適用して通報者が保護された事例は3件しかないと指摘。公益通報者保護が企業の発展に資すると正面から訴えて企業の意識改革を促すべきだと迫りました。伊東良孝消費者担当相は「好事例を収集し公表するなど、経営トップの意識向上の取り組みを強化する」と答えました。

 大門氏は、出版大手の秋田書店で、読者プレゼントの景品数を水増しして発表した問題を内部告発した従業員がパワハラを受け、「景品を横領した」とのでっち上げで懲戒解雇された2012年の事件に言及。通報後1年以内の解雇または懲戒は公益通報を理由として行われたものと推定するとした今回の法改正が当時施行されていれば、保護・救済できたかとただしました。伊東氏は「立証負担が軽減され、救済されやすくなることが期待される」と答弁。罰則導入で「不利益扱いへの抑止効果が高まり、通報者救済が強化される」と述べました。

<議事録>

○大門実紀史君 日本共産党の大門実紀史です。
 会派を代表して、公益通報者保護法改正案について質問します。
 法案に入る前に、兵庫県齋藤元彦知事の公益通報者保護法をないがしろにする発言について質問します。
 公益通報者保護法は、事業者に対し、公益通報者を懲戒処分にするなど不利益な取扱いをすることを禁止しています。公益通報には、組織内の相談窓口などに対して行う内部通報と報道機関などに行う外部通報がありますが、この規定は内部通報、外部通報を問わず守らなければならないものです。
 ところが、齋藤知事は、自身のパワハラ行為などをマスコミへ外部通報した西播磨県民局長を特定し、懲戒処分を行いました。知事から、うそ八百、公務員失格など誹謗中傷を受けた県民局長は、その後、死をもって抗議すると自ら命を絶たれました。
 齋藤知事は今年三月の記者会見で、公益通報者の保護は内部通報の場合に限られると勝手な解釈を述べ、外部通報した県民局長を懲戒処分にした県の対応は適切であったと主張しました。
 齋藤知事は、その後、消費者庁の事務方から法解釈の間違いについて指摘を受けたり、あるいは五月十二日には公益通報者保護制度の研修まで受講したにもかかわらず、全く自身の間違いを理解できず、いまだ一連の対応は適切だったと言い張っています。
 そもそも公益通報者保護法の解釈権は所管官庁である消費者庁にあります。公職にある県知事がそれを無視して、間違った解釈を平然と社会に発信し続けていいのでしょうか。しかも、今、国会では公益通報者保護法改正案が審議されている真っ最中です。齋藤知事の発言は、国会の法案審議をも愚弄するものではありませんか。伊東大臣の認識を伺います。
 伊東大臣は五月九日の記者会見で、兵庫県に対しては地方自治法に基づく技術的助言しかできない、これ以上の対応に限界があると、齋藤知事の発言をこのまま放置する姿勢を示されました。国会に対し公益通報者保護法の審議をお願いしている立場のあなたがそんな適当な対応でいいのですか。事務方任せにせず、大臣自ら消費者庁の見解を齋藤知事に伝え、誤りを改めるよう求めるべきではありませんか。
 今回の改正案は、公益通報を理由とした解雇、懲戒に対する刑事罰の導入など、公益通報者保護を強化する点で、これまでの実効性のない改正に比べ、文字どおり一歩前進と言える内容です。この間の有識者検討会で真剣な議論を重ねてこられた委員の皆さん、そして消費者庁の事務方の皆さんにも敬意を表したいと思います。
 しかし、二〇〇四年に初めて公益通報者保護法が制定されてから、もう二十一年になります。二十一年も掛けてたった一歩の前進です。その原因は何か。
 最初に公益通報者保護法の制定が議論されたときから、経済界、経団連は、公益通報者の保護は日本を密告社会にしてしまうという的外れなキャンペーンを展開し、法案の骨抜きを図りました。オリンパスの巨額の粉飾決算や東芝の不正会計事件において内部告発者が弾圧されていたことなどを受けて検討が始まった二〇二〇年の法改正も、結局、経済界の抵抗によって実効性のない中身になってしまいました。その結果、これまで裁判において公益通報者保護法を適用して通報者が保護された事例は僅か三件しかありません。この二十一年を振り返ると、公益通報者保護制度の整備が遅れてきた最大の原因は、経済界の抵抗と、それに屈してきた消費者庁の気概のなさにあったのではないでしょうか。
 そもそも公益通報者保護制度の整備と経済界、企業の健全な発展は矛盾するものではありません。公益通報者保護制度の確立は、企業の自浄作用を促し、健全な企業風土を培うことになり、企業の中長期的発展を図る上で大きなメリットがあります。
 消費者庁がなすべきことは、経済界の顔色を見ながら恐る恐る法改正を進めることではなく、公益通報者を守ることが企業の発展に資することを正面から訴え、むしろ企業の意識改革を促すことではないでしょうか。答弁を求めます。
 私は、今まで企業や官庁の不正行為を数多く国会で取り上げてきましたが、そのほとんどは内部告発者から寄せられた情報と事実証拠に基づくものでした。告発された方々に共通していたのは、企業や組織の不正を知り、見て見ぬふりをしたら消費者被害が拡大する、会社も信用を失ってしまう、黙認した自分も人間として駄目になるという思いでした。ごく普通の職業意識や価値観を持った人たちが、社会と会社のため、自らの尊厳を守るために勇気を出して告発に踏み切ったのです。
 しかし、多くの内部告発者は、企業や組織から解雇や配置転換、陰湿ないじめなどの報復を受けてきました。今回の改正は一歩前進と評価しますが、本当にこれで公益通報者が保護されるのでしょうか。
 法文上の審議は委員会で行うとして、ここでは具体例でお聞きします。
 例えば、二〇一二年、大手出版社秋田書店が内部告発した社員を懲戒解雇した事件です。秋田書店は、漫画雑誌の読者プレゼントの景品の数を水増しして発表していました。不正をやめるよう上司に訴えた当時二十八歳の女性社員Aさんに対して、秋田書店は連日、暴言、パワハラ、嫌がらせを繰り返し、とうとうAさんは精神疾患による休職に追い込まれました。さらに、秋田書店は、事もあろうに、Aさんが景品を横領したとでっち上げて、Aさんを懲戒解雇にしました。
 Aさんは消費者庁に公益通報を行い、消費者庁は二〇一三年八月、景品表示法違反で秋田書店を処分、措置命令を出しました。この問題は当時の消費者問題特別委員会でも取り上げましたが、消費者庁は景品表示法違反を問うだけで、公益通報者保護法の立場からAさんを救済することはできませんでした。
 Aさんは同年九月、解雇撤回と損害賠償を求めて東京地裁に提訴し、二〇一五年十月に和解が成立しましたが、和解金は僅かな金額で、しかも、秋田書店側は、解雇した理由は内部告発したからではないと居直る声明を出しました。
 Aさんは、有名私立大学を卒業し、編集者になる夢を抱いて秋田書店に入社をいたしました。不正をただそうとしただけで夢を奪われ、心身まで傷つけられたのです。
 今回の改正案では、公益通報を理由とする不利益な取扱いにおいて、通報後一年以内の解雇又は懲戒は公益通報を理由として行われたものと推定する、いわゆる民事上の立証責任の転換が盛り込まれています。
 今回の改正案が、もしも当時、既に施行されていれば、Aさんのような事例は保護、救済することはできたのでしょうか。一般論で結構ですが、お答えください。
 また、今回の改正で、Aさんのようにパワハラ、暴言、嫌がらせなどによって休職に追い込まれたケースを防ぐことはできるのでしょうか。これも一般論で結構です。お答えください。
 現場では公益通報者への報復は今も様々な形で行われています。今回の改正だけでは保護できない事例がまだまだたくさんあります。企業や団体の不正をただすため勇気を持って声を上げた人たちを保護するため、一歩前進で終わらせるわけにはいきません。更に実効性のある改正を求めて、質問を終わります。(拍手)

○国務大臣(伊東良孝君) 大門実紀史議員にお答えをいたします。
 まず、兵庫県知事の発言に対する認識、対応についてお尋ねがありました。
 兵庫県知事が県の文書問題への対応は適切だったと発言していることについては、あくまでも個別の通報への対応等を指しているものと理解をしております。公益通報者保護法では個別の通報への対応に関する事実関係の認定は裁判所においてされることとされており、消費者庁が事実関係を認定する立場にないことから、コメントすることは差し控えます。
 また、消費者庁では、地方自治法に基づく技術的助言として、地方公共団体向けに通報対応に関するガイドラインを策定しているほか、地方公共団体に限らず、民間事業者、労働者に対しても、法の解釈に関する一般的な助言や照会への対応等、様々なやり取りを日常的に行っているところです。
 消費者庁としては、必要に応じて、引き続きこのような取組を適切に実施してまいります。
 次に、公益通報者保護法の実効性向上に向けた消費者庁の役割についてお尋ねがありました。
 公益通報者保護制度が実効的に機能するためには、この制度の意義について事業者の理解が向上することが最も重要であると考えております。
 このため、消費者庁では、不祥事に関して企業が公表した調査報告書で取り上げられた内部通報制度の課題を分析し、経営トップに対する提言としてまとめています。また、内部通報制度を導入していない事業者の経営者向けに、内部通報制度の重要性や必要性、導入方法について理解を促すためのショート動画を作成し、広く周知する等、積極的に経営トップに対する啓発活動を行ってきたところであります。
 今後も、こうした取組を継続するとともに、事業者の好事例を収集し公表するなど、経営トップの意識向上のための取組を強化してまいります。
 次に、秋田書店の事案や改正法案による公益通報者の保護、救済の可能性についてお尋ねがありました。
 消費者担当大臣として、個別の事案に対する改正法案の適用関係についてお答えすることは差し控えさせていただきます。
 その上で、一般論として申し上げれば、今回の法改正によって、公益通報から一年以内の公益通報者に対する解雇又は懲戒は公益通報を理由とするものと推定することとし、事業者に立証責任を転換することとしています。これにより、公益通報者の立証負担が軽減され、公益通報者保護法の適用により労働者が救済されやすくなることが期待されます。加えて、今回の法改正により、公益通報を理由として解雇又は懲戒した者は刑事罰の対象となり得ます。
 これらの措置により、公益通報を理由とする不利益な取扱いに対する抑止効果が高まり、通報者の救済が強化されるものと考えております。
 さらに、改正法案におけるパワハラ、暴言、嫌がらせ等への対処についてお尋ねがありました。
 改正法案において、嫌がらせ等は罰則や立証責任の転換の対象にはなっておりませんが、嫌がらせを含む公益通報を理由とした不利益な取扱いについては現行法で既に禁止されており、こうした解釈を事業者に浸透させることが重要と考えております。
 このため、消費者庁としては、内閣府告示である法定指針において、不利益な配置転換、嫌がらせ等が、禁止される不利益取扱いに含まれ得ることを明記し、事業者に改めて周知徹底することを検討しております。これにより、事業者に対する抑止力が高まるほか、民事裁判で参照されやすくなることで公益通報者が保護されることが期待されております。
 以上でございます。(拍手)

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