<議事録>
○議長(関口昌一君) 大門実紀史君。
〔大門実紀史君登壇、拍手〕
○大門実紀史君 日本共産党の大門実紀史です。
所得税法等改正案に反対の討論を行います。
反対する最大の理由は、本改正案が日本経済のゆがみを是正するどころか、更に助長するものだからです。
日本経済のゆがみとは、経済全体が株主資本主義に支配されていることです。株主資本主義は、企業は株主のものという考え方に基づき、株主利益の最大化を企業経営の目的とします。株価を引き上げ、配当を増やすために目先の短期利益ばかり追求され、賃金の抑制と人員削減が日常化し、企業の中長期的な発展のために必要な設備投資などは後回しにされます。
しかし、企業は株主だけのものではありません。企業は、働く従業員や取引先、下請事業者、顧客、地域社会といったあらゆるステークホルダーの利益に貢献すべき社会的存在です。そのことを自覚した経営を行ってこそ、企業の持続的な発展もあります。
ところが、そんなことはお構いなしに、株主利益の最大化に狂奔するのが株主資本主義です。この三十年、いつまでたっても実質賃金が上がらず、格差が拡大し、日本企業が持っていた競争力が失われ、経済全体が停滞してきたのも、株主資本主義がはびこってきた結果です。このことを正さなければ、失われた三十年が四十年になってしまいます。
株主資本主義の貪欲さを象徴するのが、この間問題になっている大企業の自社株買いです。自社株買いとは、企業が自分の会社の株式を市場から買い戻すことです。自社株買いを行うと、市場に出回る株式の数が減少し、一株当たりの株価が上昇します。つまり、自社株買いは、株主をもうけさせるために自分の会社の株を買って株価をつり上げることです。
この間、自社株買いが急増しています。特に二〇二四年度は、千百五十二社、総額十五兆六百三十億円と、過去最高の自社株買いが行われました。買い付け額一位のトヨタ自動車は一兆一千四百十三億円、二位のリクルートホールディングスは七千五百十九億円、三位のホンダは六千二百五十九億円など、各社とも純利益の約四分の一を自社株買いにつぎ込んでいます。その結果、大企業が保有する自社株は、二〇一三年度以降の十年間で十一兆円から三十兆円へ二・七倍にも膨らみました。
企業の経営者、役員は取得した自社株を優先的に購入することができ、この間、経営陣による自社株保有も増加しています。しかし、経営陣が自社株を持つことになれば、自分たちはもうかるので、本業の努力で株価を上げるより、安易に自社株買いに走るようになります。
かつては株主が株価引上げを経営陣に要求し、物言う株主と呼ばれましたが、今や株主に言われなくとも経営陣が自ら進んで自社株買いを行っています。
既にアメリカでは、自社株買いが企業経営をゆがめているとし、それを抑制するため、二〇二二年から自社株買いへの課税に踏み出しています。日本でも、これ以上自社株買いを放置すると、企業も経済も更におかしくなってしまいます。株主、経営者に警鐘を鳴らすためにも、大企業の自社株買いに対する課税を検討すべきです。
私たちは決して大企業を敵視しているわけではありません。大企業にふさわしい社会的責任を果たすべきだと主張しているだけです。内部留保も本来、企業にとって大事な蓄えです。いざというときのために一定貯蓄しておくことは必要です。問題は、様々な税の優遇措置を受けておきながら、賃金を抑え込み、将来に向けた設備投資も増やさず、株主利益だけを優先し、異常なため込みを続けていることです。
アベノミクス以降、大企業の内部留保は約二百兆円増え、五百三十九兆円に膨らみました。これほど内部留保をため込んでいるのは世界でも日本の大企業だけです。余剰資金と言われる手持ちの現預金も四十兆から七十六・五兆円へ一・八倍にも増加しています。この余剰資金の僅か数%を賃金に回すだけでも大幅な賃上げが可能です。
今まで法人税の税率が引き下げられてきたにもかかわらず、賃金や国内の設備投資は増えず、内部留保や現預金に回ったことは政府税調、与党税調も認めています。
二十七日の財政金融委員会における我が党の小池晃議員の質問に対し、石破総理も、法人税を下げたことは思ったような効果を上げなかったという深い反省の下に法人税改革に取り組んでいきたいと答弁されました。深い反省と言うなら、単なる大企業への補助金と化した研究開発減税を始めとする大企業優遇税制はきっぱりやめるべきです。
巨額に膨らんだ大企業の内部留保については、安倍元総理や麻生元財務大臣、岸田前総理も石破総理も加藤財務大臣も、もっと賃金や設備投資に還元してほしいと述べてこられました。ならば、我が党が提案してきている内部留保課税案を真剣に検討すべきです。経団連などは、内部留保への課税が二重課税に当たると反対していますが、笑止千万です。大体、賃上げをする約束で減税してもらったのに、賃上げに回さなかったのだから、減税分を政府に返却してもらうのは当たり前です。
一つの原資に違う目的で二回課税することは既に財務省が行っています。同族会社の留保金課税だけでなく、消費税もそうです。所得に税金を掛け、その所得は、使うときに消費税を掛けています。
そもそも課税というのは政策手段です。一つの原資に同じ税を掛けることはできませんが、その原資が運用される別の段階で政策目的に応じて別の税が課せられることはあり得るのです。法人税と内部留保課税は別の税金です。何の問題もありません。
また、石破総理は、予算委員会での質問に対し、韓国の内部留保課税はうまくいっていないので慎重にすべきと話されました。確かに韓国は、毎年のフローに掛ける方式ですので、企業は課税を逃れるために利益を一層配当に回し、結局、賃金にも設備投資にも回りませんでした。
一方、私たちの提案は既にたまっているストックに期間を区切って課税する方式ですから、逃げることはできません。内部留保課税で得た財源を中小企業が最低賃金を引き上げる支援に回し、経済全体を活性化させようという提案です。
個々の企業に内部留保を還元せよと幾ら迫っても、株価引上げ競争に陥っている経営者には対応できないでしょう。我が党の提案のように、全体に網を掛け是正を促進する仕組みがどうしても必要です。本気で大企業の内部留保を問題だというのなら、我が党の提案を真剣に検討すべきです。
予算委員会の締めくくり総括において、我が党の山添拓議員が逆進性のある消費税を減税するよう求めたのに対し、石破総理や加藤大臣は、給付において所得再分配はなされていると答弁されました。
しかし、給付だけでなく、税の取り方においても、富裕層への課税強化など応能負担を強化すれば、所得再分配効果は更に高まるのではないでしょうか。本気で格差を是正し、景気を良くしようと思うなら、消費税の減税を直ちに決断すべきです。
以上申し上げて、反対討論を終わります。(拍手)
○議長(関口昌一君) これにて討論は終局いたしました。