国会質問

● ● ● ●  大門みきし Daimon Mikishi  ● ● ● ●


■2025年3月12日 参院本会議 所得税法等改定案
<赤旗記事>

2025年3月14日(金)

所得税法等改定案 応能負担の原則に戻せ
参院本会議 大門氏求める

 所得税法等改定案が12日、参院本会議で審議入りしました。日本共産党の大門実紀史議員は、税負担は受益者負担ではなく、大企業・富裕層から応分の負担を求める応能負担の原則を強化するよう求めました。

 大門氏は、財務省が「税とは何か」という解説で、税金は助け合いのための会費だとしているが、社会保障や教育は憲法に基づき保障された権利だと強調。「財務省の考えは、社会保障や公共サービスを受ける者が受益に応じて税を払う受益者負担論に変質している」と批判しました。

 大門氏は、新自由主義のもと進められた所得税の最高税率引き下げや法人税減税の穴埋めで、庶民増税による国民増税を正当化したのが応益負担増だと指摘。「応益負担の固執は、低所得者から税を取り、低所得者へ給付することになり所得再分配機能を否定する」と強調し、応能負担の原則強化を求めました。

 所得税の課税最低限の議論に応益負担論を持ち込めば税金は広く国民から取ればいいことになり、限度額引き上げの理由がなくなるとして「生計費非課税原則だけに基づき課税最低限を大幅に引き上げ、社会保障財源を逆進性がある消費税ではなく応能負担の税制改正で賄うべきだ」と消費税の5%減税を迫りました。

 高額療養費の負担引き上げの理由に受益者負担の適正化をあげたとして、「命を見捨てて何の適正化か」と批判。全面撤回と各種引き下げを求めました。

 石破茂首相は「租税全体を考えれば公共サービスの給付等と負担とのバランスが必要だ」と強弁しました。

<議事録>

○大門実紀史君 日本共産党の大門実紀史です。
 所得税法等改正案に関連して質問します。
 政府、財務省とは、長い間、税制について議論をしてきましたが、税に対する考え方がだんだんゆがんできていると思います。財務省のホームページに税とは何かという解説があり、次のように書かれています、私たちが納めた税金は、年金、医療、福祉、教育など、社会での助け合いのための活動に使われています。そのために必要なたくさんのお金をみんなで出し合って負担するのが税金です、つまり、税金は、みんなで社会を支えるための会費と言えるでしょう。言えないと思います。
 加藤財務大臣にお聞きします。
 そもそも社会保障や教育は助け合い活動ですか。社会保障や教育は、憲法に基づいて国民に保障された権利であり、それを実行するのは政府の責任ではありませんか。
 更に言えば、税金は会費ですか。普通、会費というのはサービスに応じて支払うもので、応益負担が原則です。一方、税金は負担能力に応じて負担する応能負担が原則のはずです。財務省の税に対する考えは、応能負担ではなく、社会保障や公共サービスを受ける者はその受益に応じて税を払うべきという応益負担、受益者負担論に変質してきているのではありませんか。加藤大臣の答弁を求めます。
 また、この間の石破総理の税制に関する答弁も、受益と負担の関係ばかりに言及され、特に応益負担を強調されています。総理も、税は応能負担より応益負担を重視すべきとお考えですか。答弁を求めます。
 近代民主国家における課税の原則は応能負担です。税の応能負担と社会保障給付を通じて所得の再分配を図り、国民の所得格差を是正し、中間層を分厚くすることで、社会の安定と経済の成長を図ろうという考え方が大本にあるからです。
 しかし、八〇年代のイギリスのサッチャー政権、アメリカのレーガン政権以降、大企業や富裕層、投資家の利益を最大化することを目的とした新自由主義が世界に広がり、各国で所得税の最高税率の引下げや大企業向けの法人税減税が進められました。
 一方、その穴埋めをするために、国民に広く税負担を求める庶民増税が行われました。このとき、国民負担増を正当化するために登場したのが応益負担論でした。税は受益者が負担すべきという理屈が振りまかれたのです。
 歴史的文脈から見れば、応益負担、受益者負担論は国民の負担増を正当化し、所得の再分配をサボタージュするイデオロギーとして出されてきたものではありませんか。総理の認識を伺います。
 このことは私の実感とも一致します。私が最初に国会で税の議論をさせていただいた財務大臣は宮澤喜一さんでした。知性と見識のある方で、「社会正義のために」という当時野党からも賛同された提言において格差是正を説かれ、所得再分配の重要性について新人議員の私が教えていただくことも多々ありました。
 ところが、小泉政権で竹中平蔵氏が経済担当の大臣に起用された辺りからおかしくなりました。何でも自己責任の新自由主義がはびこるようになり、所得の再分配より応益負担、受益者負担論がまかり通るようになったのです。
 しかし、受益者負担ばかり追求していけば、つまるところ、所得の低い人から税を取って所得の低い人に給付することになってしまいます。所得再分配機能の否定です。これでは格差は是正されず、経済も停滞してしまいます。
 石破総理は、予算委員会での私の質問に対し、格差を是正しないと経済も発展しないとお答えになりました。ならば、税の応能負担原則をおろそかにするのではなく、むしろ強化して、税金はもうかっている大企業や富裕層に応分の負担を求めるべきではありませんか。
 総理は、応能負担と応益負担のバランスが大事だとお答えになるかもしれません。あるいは、少子高齢化社会へ向けて世代間の負担の公平を図る必要があるとお答えになるかもしれません。しかし、どんな社会になろうと、税における公平性とは負担能力における公平性のことです。世代間の公平などと言って現役世代と高齢者の分断を図り、社会保障全体を削減しようとしている国は日本だけです。
 税の応益負担に固執していることが格差の是正も妨げています。例えば、課税最低限の問題です。
 課税最低限は、一九九五年以来、三十年間も据え置かれてきました。加藤大臣は、据え置いてきた理由を物価上昇率が低かったからだと説明されました。しかし、そもそも日本の課税最低限は、夫婦子供二人の場合、二百八十五万円で、ドイツの四百八十四万円、アメリカの八百九十二万円などに比べて余りにも低過ぎます。物価云々の前に、なぜ欧米に比べて低過ぎる課税最低限を引き上げようとしてこなかったのか、加藤大臣、お答えください。
 石破総理は、課税最低限について、生計費だけでなく、個人所得税を通じて公的サービスを賄うための費用を国民が広く分かち合う必要性などを踏まえる必要があると本会議で答弁されました。つまり、公的サービスを受けているのだから、所得の少ない人も含め広く国民が税を負担する必要があるというお考えでしょうか。お答えください。
 課税最低限の議論にこういう応益負担論を持ち込むと、税金はできるだけ広く国民から取ればいいということになり、課税限度額を引き上げる理由はなくなってしまいます。余計な理屈を付けず、欧米各国のように、生計費非課税の原則だけに基づき、課税最低限を大幅に引き上げるべきではありませんか。総理の答弁を求めます。
 受益と負担の公平と言うなら、アベノミクスのおかげで株で大もうけさせてもらった富裕層の受益に対し、もっと負担を求めるべきです。日本より株取引の活発なアメリカでは、高い金融所得には重い税金を掛けています。投資にブレーキを掛けるという総理の御指摘は当たりません。直ちに一億円の壁の是正を決断すべきです。総理の答弁を求めます。
 消費税も元々、大企業・富裕層減税の代替財源として直間比率見直しのために導入されました。社会保障の財源は、逆進性のある消費税ではなく、応能負担の税制改革で賄うべきです。消費税は直ちに五%へ減税するよう求めます。
 給付における受益者負担の最も冷酷な例が、今大問題になっている高額療養費の負担額の引上げです。このことを政府に建議した財政審は、引上げの理由に給付と負担の適正化、受益者負担の適正化を挙げました。しかし、人間の命を見捨てて何の適正化でしょうか。物価高騰で生活が圧迫される中、がん患者の皆さんは、負担の引上げどころか、引下げを求めておられます。患者団体の皆さんを見直しの協議の場に参加していただくとともに、負担上限額の引上げを全面撤回し、むしろ引き下げることを強く求めます。
 この点について総理のお考えを最後にお聞きして、質問を終わります。ありがとうございました。(拍手)

○内閣総理大臣(石破茂君) 大門実紀史議員の御質問にお答えいたします。
 税の応能負担と応益負担についてのお尋ねをいただきました。
 私は、応能負担より応益負担を重視すべきと申し上げているわけではございません。消費税の負担面だけを取り出した議論に対して、消費税財源が充当される社会保障給付等による給付等は低所得者ほど手厚いことから、所得の再分配を考える際には給付等の面も併せて評価すべきと申し上げているものでございます。
 租税全体を考える場合においても、社会保障に限らず様々な公共サービスの給付等とそれを賄う負担とのバランスを取ることが必要であり、その給付等と負担とのバランスは個人ベースで必要だと申し上げているわけではなく、我が国全体としての必要性を申し上げているものでございます。
 応益負担等の考え方は所得再分配を行わない理由なのではないかというお尋ねでございます。
 租税は、国民が広く便益を受ける公的サービスの費用を賄うものであり、応益負担の要素が存在することも事実であります。例えば、一九五四年に創設されました道路特定財源制度も、受益者負担の考え方に基づき、揮発油税が道路整備の特定財源とされたものでございます。しかしながら、揮発油税が所得再分配の支障になったということがあったわけではございません。
 他方で、私は、経済社会の構造変化を踏まえ、応能負担を通じた再分配機能の向上や格差の固定化防止を図ることは重要であると考えております。
 今後の税制の在り方につきましては、中長期の視点に立ち、持続可能な経済財政運営を行う観点から、経済社会の構造変化を踏まえ、応能負担を通じた再分配機能の向上や格差の固定化防止を図るなど、あるべき税制の具体化に取り組んでまいります。
 大企業や富裕層に応分の税負担を求めるべきではないかというお尋ねであります。
 法人税につきましては、令和七年度与党税制改正大綱におきまして、法人税率を引き上げつつターゲットを絞った政策対応を実施するなど、めり張りのある法人税体系を構築していくとされたことなどを踏まえつつ、検討を進めていくことといたしております。
 所得税につきましては、所得再分配機能の強化を図る観点から、平成二十五年度税制改正において最高税率の引上げを行ったほか、令和五年度税制改正において、金融所得を含め、極めて高い水準の所得を対象として、令和七年分所得から追加的に負担を求める措置を導入するなど、負担の見直しを進めております。
 課税最低限の引上げについてのお尋ねでございます。
 基礎控除等から構成される所得税の課税最低限は、生計費の観点や、公的サービスを賄うための費用を国民が広く分かち合う必要性の観点も含めて総合的に検討して定められているものであって、どちらか一方だけの観点で定めているものではございませんが、基礎控除を含む各種の所得控除は、負担能力としての所得の大きさを調整することにより、所得に適用される税制、累進税率と相まって、応能負担の実現に寄与しているものと考えております。
 与党修正では、給与収入二百万円相当以下の者に対し、基礎控除の特例として三十七万円の上乗せを行うこととされ、課税最低限が百六十万円と、生活保護基準の最低生活費を超える水準となります。これは低所得者層の税負担に対して配慮したものであると、このように認識をいたしております。
 いわゆる一億円の壁の是正についてのお尋ねでございます。
 税負担の公平性確保は十分に認識しておりますことから、令和五年度税制改正において、金融所得を含め、極めて高い水準の所得に対する適正化措置を導入するなど、一定の対応を図ってきたところでございます。
 税負担の公平性の確保に加え、我が国の金融市場や投資家の性格も見ながら考える必要がありますが、貯蓄から投資への流れを引き続き推進し、一般の投資家が投資しやすい環境を損なわないようにすることも重要であり、今後とも金融所得課税の在り方を総合的に考えてまいります。
 高額療養費制度の見直しについてでございます。
 高額療養費制度につきましては、見直し全体について実施を見合わせ、本年秋までに改めて方針を検討し、決定することといたしております。
 今後の具体的な検討内容について、現時点で方向性について予断を持って申し上げる段階にはありませんが、保険料負担の抑制や制度の持続可能性の確保とともに、患者の方々の経済的な御負担が過度なものとならないようにすることが重要であり、上限額を引き下げる方向での検討は考えておりません。検討に当たりましては、保険料を負担する被保険者の立場の御意見も拝聴しつつ、患者の方々のお話を十分に伺い、その御理解をいただくべく最善を尽くしてまいります。
 高額療養費制度が患者の皆様にとって大切な制度であるからこそ、改めて丁寧な検討プロセスを積み重ねることで、持続可能なものとして次の世代に引き継いでまいりたいと考えております。
 残余の御質問につきましては、関係大臣から答弁を申し上げます。
 以上でございます。(拍手)

○国務大臣(加藤勝信君) 大門議員から、財務省のホームページにおける「社会での助け合いのための活動」との記載を踏まえ、社会保障や教育は助け合い活動か、政府の責任かとの御質問をいただきました。
 御指摘のホームページでは、社会保障、教育などが国民が広く便益を受ける公的サービスであること、そのための費用を納めていただいた税金等で賄っていることをお示しする趣旨で記載をしたものであります。
 政府は、自助、共助、公助の適切な組合せにも留意しつつ社会保障等の公的サービスを提供しており、そうした趣旨も踏まえ、「社会での助け合いのための活動」と記載をしているところであります。
 次に、税に対する考え方についてお尋ねがありました。
 租税は、年金、医療などの社会保障や、教育、道路や水道といった社会資本の整備、警察や消防など社会に必要とされる公的サービスの費用負担を皆で分かち合うものであり、社会共通の費用を賄うための会費と言い表すことができるものと認識をしております。
 国民が広く便益を受ける公的サービスの費用を賄う租税には応益の要素も存在はしておりますが、個々の、それぞれの負担能力に応じて課税するのが適切で、適当である応能負担の考え方も踏まえて税制の在り方を検討していかなければならないと考えております。
 具体的には、少子高齢化、グローバル化などの経済社会の構造変化に対応したあるべき税制の具体化に向け包括的な検討を進めるとともに、再分配機能の向上などを図りつつ、公平かつ多様な働き方などに中立的な税制を構築し、経済成長を阻害しない安定的な税収基盤を確保するため、引き続き税体系全般の見直しを進めてまいります。
 課税最低限の引上げについてお尋ねがありました。
 基礎控除などから成る所得税の課税最低限については、生計費の観点や、公的サービスを賄うための費用を国民が広く分かち合う必要性などを踏まえて総合的に検討されてきており、生計費の観点からは物価が勘案されてきております。主要国においても、物価に応じた調整を行っている国が多いものと承知をしております。
 我が国においては、物価上昇が続いていた昭和四十年代においてはほぼ毎年課税最低限の引上げが行われていた一方、令和七、失礼、平成七年以降においては、物価上昇率が直近の状況を除きほぼ横ばいで推移してきたため、見直しは行ってこなかったものであります。
 その上で、今般、政府案と衆議院修正を含め、合わせて課税最低限を百六十万円まで引き上げることとしたものであります。(拍手)

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