国会質問

● ● ● ●  大門みきし Daimon Mikishi  ● ● ● ●


■2004年11月24日 国際問題に関する調査会 中国社会の所得格差、貧富の差の拡大の問題
東アジアコミュニティーをどう作るか

<議事録>

○大門実紀史君 両参考人、御苦労さまでございます。
 私の方は二つの点に絞って伺いたいと思います。
 一つは、中国社会の所得格差、貧富の差の拡大の問題です。
 この夏、参議院でODA調査団、代表団行きまして、私も参加してまいりました。先ほどお話あった貴州省にも行ってまいりましたけれども、代表団は別に感謝しろとか感謝してほしいというつもりで行った者はございませんで、むしろ、各村で感謝の会といいますか、そういうものが余りにも開かれるので、もう辟易するといいますか、感謝されに来たんじゃないと、本当にODAが必要なのかどうかを、効果的なのかどうか、それを見に来たんだということで、むしろ余り感謝、感謝と言うのをやめてほしいというぐらい言ってきたのがこの代表団でございました。
 その代表団で一つ共通の認識になったのが、その中国の所得格差、貧富の差の拡大の問題でして、もう御存じのとおり、農村と都市、都市の中でも貧富の差が物すごい広がっております。沿海部と、沿海部の都市部と農村とを比べると、もう所得で四十倍とか五十倍の差があるというふうな、もう日本では考えられない貧富の差が広がっていると。
 そこで思ったのは、その貧富の差がなぜ広がっているかというと、先富論、先富政策で、とにかく、もうける人はもうけろというのをざあっととにかくやってきたと。当然、格差は広がりますね。そうすると、その中国が今抱えている貧困の問題というのは、本来であれば国の責任として、所得の再分配なり手を打って格差を縮めるのが国の政策なのに、それよりもまず先富政策で、もうける人はもうけろと、金持ちになる人はなれと、その中で生まれた貧困の問題に日本がODAで手当てすると。何かしっくりこないなというのが代表団の認識でございました。ですから、本来国が果たすべき役割をまず果たしてもらわなければいけないんではないかという意識が強かったわけですね。
 その点で、関係者、現地の中国の関係者とお話ししますと、正にその点が今中国の政府も問われているし、頑張らなければいけないというお話もされましたけれども、このまま貧富の差が拡大すると、中国の政府もかなり問われる事態になるし、あるいは、そうしたら逆にもう所得の再分配をやろうということで、税金で累進制を、がばっと累進で取るとか、あるいは農村部に社会保障制度を作るために税金回すということをやると、今一生懸命もうけて大金持ちになっている人たちから反発が来ると。これ両面が、今は中国、正に政府が突き付けられているし、それをどこか乗り越えなきゃいけない時期が間もなく来るんではないかと思いますが、その点、両参考人の認識、御意見をお伺いできればと思います。
 もう一点は、これは毛里参考人だけで結構でございます、時間の関係で。
 東アジアコミュニティーをどう作るかという点で、当然、東アジアコミュニティーといいますと、日本と中国抜きに考えられないと、むしろ日本、中国がイニシアチブを取って作るべきものであろうというふうに私思いますけれども、それが当面いろいろなことがあって難しいと。
 北京大学の林教授の論文も読ませてもらいましたけれども、難しさには二つありまして、一つは日中の、さっき、今日も取り上げられている歴史問題と、もう一つは、日本とアメリカの非常に強いといいますか、我が党なんかは従属的だと言っていますけれども、そういう日米同盟ですね、これが余りにも強過ぎて、この二つが一つのネックになって、なかなか、日本と中国が東アジアコミュニティーを作る上でのイニシアチブを取る連携がなかなか果たせないではないかというふうな意見があります。
 私もその辺、認識は一致するんですけれども、例えば歴史的要因、歴史問題は、毛里参考人言われているとおり、今はもう経済のもたれ合い状態ですから、それに国民外交とかいろんな面が加わっていけば何か解消していけるのかなというのが一つありますが、その日米同盟との関係ですね、この点では、日本と中国と米国と、アメリカと、この三つの関係がどういうふうになっていくのか、日米同盟だけの問題ではないと、中国がどう考えるのかというのがあると思います。
 その点で、細かく分けて三つお伺いしたいんですけれども、日本自身は中国とアメリカとのこのバランスをどうシフトしていくべきなのかということ。二つ目は、中国自身がアメリカと日本とのバランスをどう考えているのだろうかと、中国自身が。三つ目には、アメリカ自身が中国との関係をこれからどうしようとしているのかと。
 この辺の三つの動きが絡み合ってどうなっていくかということがあると思うんですけれども、その点、以上、細かく分けて三点、毛里参考人に伺いたいと思います。

○参考人(毛里和子君) いずれもなかなかお答えすると時間が掛かる難しい問題だと、肝心な問題だと思いますが、まず一つの所得格差の問題ですね。これについて、それで中国の中央政府の政策が不適切だからということによって生じる欠如を日本のODAが埋めることはいかがなものかという、これに対する疑義、これは当然なことであると思います。
 中国の現在の状況というのは、恐らく、格差は階層間格差、それから地域間格差、それから農村、都市間の格差、これで、これ拡大する以外に道はないと思いますね。これは止めようがない。財政の再移転、税制というような問題が今問題になっていますけれども、これがどうしてもうまくいかない。
 振り返ってみますと、十九世紀から二十世紀にかけて、中国は税金ということで租税制度で成功したことがないんですね。これは、日本国家が明治維新以来成功したところは、税金をどうやってうまく取れるか、これはすごく成功したと思うんです。私はしょっちゅう税務署とけんかしていますが、勝ったためしはない。やっぱり税務署に絶対勝たれてしまうという。この中国の一番の泣きどころは、やはりきちんとしたガバナビリティーと制度と、そのものによってきちんとした税を通じたその財の再配置というのがこれまでもできなかったし、今後もなかなか難しいと。恐らく、これは私は、ODAを出すよりも最も中国にとって有利なのは、恐らく、その税と行政をどうやって近代化するかというのをきちんとやっぱり中国が学ぶか学ばないかということだと思いますね。これに日本はすごく多くの知識なり経験なりを提供できると思います。これは、中国は余り日本に学びたくないという別のプライドがありますけれども、でも、決してそれは、最近の中国はそれでも、やっぱりそうじゃない、いけないんだというふうに思い出してきていますから、やはりここで日本の歴史、明治以来の歴史のプラス面というのを非常に提供できると思います。
 それで、格差の問題というのは、どの程度、公正ということと効率ということをどの程度バランスさせるかということですが、これが恐らく今後の中国にとって非常に難しいバランスの取り方になると思います。なかなか効率一辺倒から公正に合わせて、公正、ジャスティスというようなところまで考える、あるいはフェアネスというようなところまで考えるには中国はなかなかできない。恐らく、将来にはまたまた農民暴動が起こるかもしれない。私は、そういうシナリオは決して非現実的ではないというふうに思っています。それが一つですね。
 それから、EAC、つまりイースト・エーシアン・コミュニティーと、それから日中米という三国の問題で、ごく、これ細かくやっておりますと大変ですので、非常に簡単に結論だけ申しますと、その日中間、日中がEACのやはりイニシアチブを取らなければならない。もしそれでなければ、日中がいなければEACは機能しない。これはもうどなたもが考えることですね。
 その場合の阻害物としてあるのは歴史の問題と日米関係だということを、二つあるというふうにおっしゃいましたけれども、今のところ、今のところは日米関係はそれほどの阻害物にはなっていないんですね、今のところ。ただし、将来なり得るということがあります。瓶のふた論というのは、中国もこれはあれしていますので、日米同盟が瓶のふたとして日本のその軍事的な膨張を抑止する有力なメカニズムだということでは考えていますので、今のところはあれだと。
 問題は、台湾に紛争が起こったときというところですね。台湾にもし何か起これば、あるいは台湾海峡でですね、これは日本が動かざるを得ない、あるいは日米同盟が機能せざるを得なくなったときにどうなるかという、これはもう、当然非常に面倒くさい問題が起こってまいります。中国は、台湾における紛争というのを私は非常に恐れていると思いますですね。それで、これは日米関係に直接波及し、日本を日米同盟下の軍事大国にそれはしてしまうからでありますから、これは一に台湾、中台関係次第だというふうに思います。
 それから、アメリカと中国の関係というのは、私は結局、ある種、やっぱり一種の、括弧付き大国と本当の大国ですが、一種のやっぱり大人の関係というのがあるように思いますね、大国同士の大人の関係というのが。その点では結構バランスができていて、中国もアメリカのある点は信じるけれどもある点は信じない。で、台湾についてアメリカは、台湾問題というのは戦略的には中国を支持するけれども、ああ、戦術的には支持するけれども戦略的には支持しないとか、非常にさめた見方をしていますし、アメリカも中国については同じで、一種の大人の関係というのがあるかなというふうに思います。
 問題は、日中というのが、アメリカ要素を除いても、除いてもですね、除いても、やっぱり非常に歴史の問題だけではなくてライバル意識、その非対称性ですね、それから非常な相似性というようなところで、なかなかこの関係が御しにくいという。中国にとっても、多分恐らくアメリカを扱うよりも日本を扱う方が難しい、日本にとっても、やっぱり世界のどの国よりも、中国とのお付き合いというのは非常にやりにくいという。ですから、ここでやっぱり歴史にきちんとけりを付けて、やっぱり日本がアジアでどう生きるかということをゼロからもう一回考え直した上で、大きくなる中国とお付き合いをした方がいいんではないかというのが私の考えです。

○参考人(莫邦富君) 貧富の差の問題に対しては、私は、二通り見るべきですが、一つは今、これは非常に問題になっているので、解決しなければならないと。
 もう一つは、そもそも中華民族という物差しで見ると、格差を是と思っている民族で、だから日本のように、例えば、今、正直に言いますと、うち、例えばメードさんを雇おうとしていたら、多分私は今のマンションにはもう住めなくなってしまうんですね、もう外国人のくせにメードさんを雇っているとか。だから、日本の大手企業、よほど大手企業の社長でないと、多分なかなかそれはできないわけですね。そうすると、大手企業の社長もメードさんを雇っていないとなると、下の下請などはもうそれはできないわけですね。しかし、中国ではそれは関係ないんです。中国の我が家では、あの大家族の中で一番稼いでいる私の方が家政婦を使っていない。だから、これはいわゆる元々一種の産業構造的な要素もあるので、だからアメリカの社会に多分中国はなると思います。アメリカのいわゆる大金持ちと割と貧しい階級の人々の収入とを比べると、それはもう四十倍、五十倍の差じゃないですよ。かといって、やはり中国は放棄、この問題を放棄してはいけない。だから、先ほどODAの使い方は、私は全く皆さんの意見に賛成するんです。
 今、日本のやり方は、ああ、中国の方がこういう貧しい人が飢えていますから、じゃ魚を、釣れてきた魚を提供しますと。私、そうではなくて、魚の釣る方法を教えるべきだと。だから、そこ、それはいわゆる中国が今直面している問題としては、富の再分配システムの構築の問題。先ほど毛里先生がおっしゃったように、あの税金の問題。もうあと、貧しい地域を、やっぱり日本で成功した一村一品運動とか、観光で町を活性化するところとか、そういうふうな日本のソフトパワーにもつながるようなところでODAを使ったらいいじゃないかと。むしろ人材養成する方に使うべきだと。
 だから、こういうふうに考えているんですが、先ほど毛里先生が指摘したように、中国人は余りいわゆる日本に学びたくないと。これは今の中国には私は合っている話で、日本には学びたくないと。しかし、九〇年代の前半までは、中国、特に八〇年代は、中国で一番叫ばれていた言葉が、今日の日本は明日の中国、つまり中国の青写真を描くとき日本をモデルにして描いていたわけです。その後気付いたのが、なぜ日本モデルを放棄したのかといいますと、中国のいわゆる教育レベル、国民の教育レベルは日本に行かない、所得格差が大きいということで、なかなか。それで、その後はシンガポールモデルを求め始めています。まあ後、やはりシンガポールモデルもやはり無理だと。シンガポールはやはり国が小さいですからそれは統括しやすい、だけど中国はそこまではできないと。
 だから、その後打ち出したのは、中国の特色を持つ自分の道ということになっているのですが、格差の問題は、私はもう非もあるんですが是もあると思いますね。格差があるから中国の経済の、経済発展のパワーにつながっているところもあるんです。
 日本は、例えて言えば、日本は琵琶湖のような非常に均質化した社会ですが、琵琶湖の水を使ってそれで発電できますか。できないんですね。中国は揚子江のように格差の非常に、落差の非常に大きな社会ですから、そこですら発電できます。かといって、やはり中国にも琵琶湖のような湖はたくさんあった方がいいと思いますから、そこまでのいわゆる方法はどうすればいいのか。この日本側はいろいろ経験を持っているから、是非中国にいろいろ教えてあげてください。
 以上です。

戻る▲